もとちゃんの
ぬいさんのおでかけ
目次
本日はぬいバスにご乗車いただき、まことにありがとうございます。
さえぎるもののない真夏の日ざしのなか、ここ、ぬいバスのなかだけは別天地のような心地好い涼しさとなっておりますが、みなさま、ご満足いただけておいででしょうか?
さて、ひとこと、ぬいバスがなぜ、はまなこんに登場することになったのか説明させていただきたく存じます。
事の起こりは……ぬい不平等論でございました。
みなさまご存じのように「ぬいの上にぬいを作らず、ぬいの下にぬいを作らず」の言葉のとおり、すべてのぬいは、平等の存在であります。
ぬい人口500個を誇る新井家でも、この言葉は実践されておりました。
ところが……おもに大きさが制約となりまして、お出かけに連れていってもらえるぬいは、そのうちの一部だったのです。
同じぬいでありながら、楽しいお出かけの回数に不平等が生じてしまう……これを解消すべく企画されたのが、今回のぬいバスなのであります。
さあ、初のお出かけにワクワクドキドキしているぬいたちが自己紹介をしたくて、うずうずしている様子。
ここから先は、不粋なガイドではなく、どうぞぬいたちのおしゃべりに耳をすませてくださいませ。
[注・ぬいとはぬいぐるみの略称です](文責・MILKA)
えーと、プロフィールは、最初に名前、次に私が書いたデータ部分そして、本ぬいによる自己紹介って構成になっています。
(なお、本ぬいによる自己紹介は、私が聞き取って書いたので、文責は私です。
仮名遣いも、私のやり方で書かせていただきました。)
ネプチューン
鯨・オス・独身・家族なし
長さ二メートルちょっと、幅一メートルかなりで、我が家では最大のぬいである。
その巨大さ故に(ソファより大きいので、上に寝っころがったり、マットのように上でジャンプしたり、色々できるもんで)、我が家に子供が遊びに来た時、もの凄くうける。
旦那から私へのバースディ・プレゼントぬい。
「え……自己紹介?
僕は、ネプチューンという名前の鯨です。
多分、この家で一番大きいぬいだと思う。
ひょっとすると、あるいは、素子さんと旦那なんかは、『大きいことはいいことだ』って感想を僕に持たせたいのかも知れない。
僕が大きいことをしょっちゅう指摘するから。
でも僕……大きいから特に自分が偉いとも偉くないとも思ってない。
そんなことより、僕の夢は、立派な保父さんになることなんだ。
うん、僕は、子供が好きです。
子供達が僕で遊んでくれたり、三歳くらいになると、僕を持ち上げようとか色々してくれると、すんごく、嬉しい。
将来は、保父さんになって、幼稚園か保育園に就職するのが夢なんだけど……就職しているぬいぐるみって滅多にいないから、この夢が叶うかどうかは謎です」
ポセイドン
鯨・オス・独身・家族なし・もう十歳を越えるので、比較的長老の部類にはいるぬい
旦那が私と付き合いだして、初めて買った、だんなのぬいである。
サイズは大体一畳分くらい。
趣味は囲碁。
うまれつき老けていた。
定位置は、偶然にもいつも、洋服箪笥の上。
「わしはポセイドンだ。
同じ鯨だからといって、ネプと同列に扱って欲しくない。
……いや、別に、わしの方がネプよりはるかに年長である、とか、そういうことを言っているのではない。
ただ……その……(物凄く言いにくいらしい・素子注)。
はっきり言おう。
わしは子供が嫌いだ! わしに子供を近づけないようお願いしたい。
わしはもう年が年なので、子供に遊ばれると生命の危機を感じる。
わしはまったく、ネプの気持ちが理解できない。
それから。
今回のぬいバスでは、通常旅行ができない、大きなぬいを中心に予定を組んでいるという話を聞いたが、では、何故、洋服箪笥がメンバーにはいっていないのだ?
わしはこれに多大なる不満を感じる。
わしが最初に住んだ旦那の下宿、旦那が就職して引っ越した家、素子さんと結婚して最初に住んだ家、そして今の家、そのすべての家で、わしは洋服箪笥の上が定位置だった。
そして、わし以上に、おそらくはネプよりもっと、洋服箪笥は旅行がしにくい筈だ。
次回のぬいバス企画がもしあるのなら、洋服箪笥、本棚、食器棚等、より、旅行がしにくいものを優先的にバスに乗せるよう、わしは要求したい」
まくらくじら
鯨・メス・独身・家族なし・高校時代から我が家にいるかなりの長老株
基本的には『ぬいぐるみ種族』ではなくて『あみぐるみ種族』に属するぬいである。
身長一メートル程度、幅はさほどでもなし、長い枕の形状をしている。
ただ、キャリアがとても長いのに、その仕事上の性質からいって(私の枕である)、寝室を出ることが滅多になく、あまり他のぬいとの交流がない。
「え……自己紹介?
……まくらくじらです。
まっこうくじらではありません。
あの、そのくらいしか、わたしには言うことが……。
あ、ええ、あの、わたしみたいな日陰にいるぬいを連れていって貰えて、嬉しいです。
……あの……他に……何か? ……あの……できれば、素子さんは寝室でお茶を飲まないでください。
旦那は寝室でアイスクリームを食べないで下さい。
あれをされると、時々、掛け布団さんや敷布団さんや毛布さんに、被害がありますから。
……え。
……あ。
そういうことじゃなくて?
……えーと、じゃ、あの……。
旦那は、もうちょっと寝て下さい。
旦那の睡眠時間は、かなり短めで、わたしはそれが気になります。
素子さんは、もう、これ以上寝なくていいです。
素子さんの睡眠時間は、かなり長めで、こんなに寝ていると、他のことは何もできないんじゃないかと……。
あ。
やっぱり、こういう話をして欲しいんじゃないんですね?
ごめんなさい。
」
ダナ・テイル
キャットテイル・メス・独身・テイル一族の長女・豹柄
SF大会で会った方にいただいた最初のテイル。
(というか……SF大会で一目みてテイルに惚れ込んでしまった私、事情が許す限りその人の後にくっついて、ずっと、「これいいですねー、いいですねー、いいですねー」って言い続けて……そうしたら、後日、新しいテイルをわざわざ作ってくださった。
)普通のテイルは虎柄で、豹柄のテイルは二匹しかいない。
「ダナです。
本当は私、今回の旅行に参加する資格はないんです。
何せ、私とルナは、一時、素子さんが殆ど毎日ショルダーバッグに巻き付けて出掛けていたので、旅行経験はとても豊富ですし。
ああ、そうそう、我が家で一番最初に海外旅行をしたぬいは、私なんですよ。
ただ、今回、我がテイル一族から何匹か旅行に参加することになって……一族の長老ということで、私とルナ、そしてリナも参加させていただくことになりました。
よろしくお願い致します」
ルナ・テイル
キャットテイル・メス・独身・テイル一族の次女
ダナをくださった方から頂いた、二匹目のテイル。
ちなみに、ダナという名前はDNA、ルナはRNAからとった。
(螺旋形にしておくと一番安定するので。
)
以降、テイル一族は、原則的に○ナって名前になることになる。
「ルナです。
ダナはあんなこと言ってたけど、私は、ダナも私もリナも旅行資格はあると思う。
そりゃ、確かに最初の頃は、素子さん、やたら私達を連れ回していたけど、最近とんとお見限りだしさあ。
あ、ううん。
本当は違うの。
ルナも判っているの。
私達、あまりに素子さんに連れ回されすぎたせいで、体の中央を通っている心棒がくなっとしてきちゃってるんだよね。
だから、最近は、体の為にあまり外出しない、まして、ショルダーバッグに巻きついての外出は絶対しちゃいけないことになってるの。
そーゆー意味で、バスはいいな。
何かに巻きつかなくても旅行できるんだもん。
あ、だから。
ダナは何も言ってなかったみたいだけど、ダナとリナとルナちゃんは、丁寧に扱ってね。
ルナのお願い(はあと)」
リナ・テイル
キャットテイル・メス・既婚・夫はしろわに一族の長老しろわに・義理の息子に、わにわに、しろさる、さるさるの三匹がおり、嫁にしろこがいる。
テイル一族三女
そして。
これを書くと訳が判らなくなってしまうと思うのだが(あまりに複雑な関係になるので、『わにわに物語』を書く時は、これについては触れないことにした)、うちの旦那がしろさるの養子になってしまったので、リナは、私にとって、義理の祖母になってしまうのである。
とはいうものの、テイル一族はみんな私の娘なので……リナ・テイルは、私の三女で私の義理のおばあちゃんという、訳の判らない関係である。
「リナです。
ここの処ぬい格が丸くなったって評判です。
……なんか、あんまりそう言われると、昔はどんな凄いぬい格してたんだよーって、ちらっと思っちゃうけど。
今回は、夫のしろわにと一緒の参加です。
うっふっふ、新婚旅行、かなあ?
過去、リナも海外旅行はしてるんだけど、それ、二泊三日のグァムっていうとんでもない奴だったので、今回の旅行はとっても楽しみにしていまあす。
……それにしても、いくら仕事だとはいえ、仮にも海外旅行を二泊三日でやる奴いると思う?どうもその辺、あたしは素子さんの常識を疑っちゃうんだけど……。
……あ、でも。
新婚旅行だと思うと……うーん、今度の旅行、コブがやたらついて来るみたいで……。
まあ、旦那が異常に子煩悩なわにだから、しょうがないのかなあ……。
一応、一族の長老だし。
よろしくお願い致しますっ」
キナ・テイル
キャットテイル・メス・独身・テイル一族の二十二女・全長五メートル
我が家で一番長いぬいであり……おそらく、その、日本有数の長いぬいであろうと思う。
(五メートルのぬいというのは半端ではない。
)
テイルを制作してくれていた処に、冗談で、「これの五メートルくらいのバージョンってできますか?」って聞いてみたら、本当に作ってくれた。
「……キナです……。
……。
……テイルです……。
……。
……長いです……」(比較的無口な子です。
素子注)
メナ・テイル
キャットテイル・メス・独身・テイル一族の二十一女・白いテイル
唯一の白いテイル。
メナ・テイルと、この後にでてくる『へびはなび』は、雑誌か何かでテイルを見た男性の方が作ってくださったテイルなので……他のテイルとは造作が違う。
全体に大きいし、太い。
そして、その太さ故に、テイルなのにショルダーバッグに巻き付けて移動するのが無理で、今回の旅行に参加することになった。
「初めまして。
メナです。
顔が丸いです。
白いテイルです。
眼鏡かけてます。
素子さんに似ているって一部で言われています。
でも、それは眼鏡のせいだと思います。
鈴つけてます。
体が硬いです。
でも、それはダナさん達と心棒の材質が違うからだと思います」
へびはなび
キャットテイル・オス・独身・テイル一族長男・今の処唯一のオスのテイル
へびはなびは、我が家で唯一、オスのテイルであり、唯一、○ナって名前ではないテイルである。
(この名前の由来は姿を見ていただければ判ると思う。
)
しかも、黒い。
顔が、あからさまに豹系統である。
(普通のテイルは猫系統の顔をしている。
)
その長さと太さ故に、普通の状態では絶対旅行できそうにないので、今回の旅行に参加することになった。
「…………………………」(本気で無口なぬいなのである。
素子注)
夢ノ介
ニシキヘビ・未婚・家族なし・全長二メートル五十
『わくわく動物ランド』出身のぬいである。
『わくわく……』に、ダナ・テイルそっくりの柄のニシキヘビが出て、そのぬいを「欲しいっ!」って心から思った私に、旦那がプレゼントしてくれた。
(勿論、「番組特製ぬいぐるみプレゼント」にあたった訳ではない。
『わくわく……』の制作会社に、旦那が問い合わせをして、作っている会社に直接お願いして、特注したのである。
だからその……異様に高価なぬいぐるみでもある訳だ。
)
薬師丸ひろ子ちゃんの、熱狂的なファンでもある。
「……わし? わしに何か言えってか? 夢ノ介というのがわしの名前だ。
錦蛇で……わしの自慢っていったらあれかな、田辺聖子さんと対談したこと。
田辺さんとぬいぐるみについての対談をすることになった素子さん、わしが、常識的であり、かつ、良識があるぬいであるという理由で、その対談相手にわしを選んだのだ。
まあ、非常に納得のゆく選択と言えよう。
田辺さん家のスヌーさんに会うことができなかったことのみが、残念である。
……それから……それから……。
ひろ子ちゃんは、今、幸せなんだろうか?
今、わしが気にかけていることは、ほぼ、それにつきる。
玉置何たらと結婚したひろ子ちゃん、彼女は幸せでいてくれるのだろうか。
断っておくが、わしは女性週刊誌の類は読まない。
不必要にひろ子ちゃんを貶めるが如き記述が多々あるせいである。
だが……素子さんは昼間は眠っている為、ワイドショウの類を見ることはできず、わしには、情報源がなさすぎるのだ。
ひろ子ちゃんは幸せなんだろうか?
幸せであって欲しい。
ぜひ、ぜひとも、幸せであってくれなくてはいけない。
わしは、心から、ひろ子ちゃんの幸せを祈る」
パルコ
月の輪熊・オス・独身・家族なし
身長こそ五歳児程度だが、横幅が大きいので、椅子に座らせると大人二人分くらいの容積をとる。
熊一族の長。
稀にトトロエプロンをして、中に『くまちゃん』という名前の熊をいれていることがある。
「パルコです。
熊は全体に温厚なので、ネプと一緒に子供と遊ぶのが好きです。
今回の旅行はくまちゃんも一緒なのかなあ。
くまちゃんはあんまり大きくないので、多分旅行リストから外れていると思うんだけど、僕は素子さんにくまちゃんを連れていってくれるよう頼むつもりです」
しろくま
白熊・オス・独身・家族なし
こちらは三歳児程度サイズ。
頂き物のぬいぐるみなのだが、「家に置いておけなくなったので」って理由で頂いたので、いささかのトラウマを持っている。
我が家に来た当時、パルコが親身になって世話をしてくれた為、パルコを敬愛してやまない。
「しろくまです。
よろしくお願いします。
パルコさん程大きくない分、小さいお子さんでも僕を持ち上げて遊べます。
パルコさんが子供と遊ぶのが好きなので、僕も子供と遊ぶのが好きです。
でも、くまちゃんも来るのかなあ。
あ、パルコさんがくまちゃんを好きなので、僕もくまちゃんは好きです。
(……おまえの意見はどこにあるんだ? 素子注)
ただ、僕はくまちゃんみたいにパルコさんのエプロンにはいることができないのが、ちょっと残念です」
にたいぬ
犬・オス・独身・家族なし
基本的に我が家の玄関を守っている。
(玄関部分にもぬいは結構いるんだけれど、そいつらは「玄関にいるだけ」、にたいぬは「門番をやっている」っていう違いがある。
)そういう意味では数少ない、実用的な仕事をしているぬいである。
かなりリアルなぬいで、一見した処(特に玄関が暗ければ)、実物の犬がうずくまっているように見える。
私はお客さんがにたいぬを見て驚くのを見るのが好きである。
「…………にた、です。
よろしく」(無口な部類のぬいなので……素子注)
しろわに
わに・オス・既婚・しろわに一族の長
こいつの家族関係はとてもむずかしいのであまり書きたくない……。
まず、我が家に来る前に結婚、長男『わにわに』をもうけるが、妻とは死別か離別。
ついで再婚、次男『しろさる』をもうけるが、再び妻とは死別か離別。
この間のことは本ぬいが記憶喪失になっているのでよく判らない。
我が家で三男『さるさる』を養子に迎える。
のち、キャットテイルのリナと再婚。
また、わにわにも妻『しろこ』を迎え、義理の娘ができる。
そして……その……何を思ったのか『しろさる』がうちの旦那を養子に迎えた為、我々夫婦の義理の祖父となる。
なお、その他の家族として、兄の『大白』、どういう関係かよく判らない謎の親戚の『しろしろ』がいる。
「しろわにです、よろしく。
自慢めいて聞こえたら悪いけど、我がしろわに一族はこの家で最も繁栄している一族なんだ。
孫がいるぬいなんて、多分、わしとリナだけじゃないのかなあ。
しかも、その孫夫婦が人間、その上我々の所有者だっていうんだから、いやあ、ははは、たいしたもんだろう。
長男にも可愛い嫁が来たし、次男なんざ、結婚もしないで息子夫婦ができてしまう、あとは、次男に可愛い嫁さんと、三男の嫁さんの面倒を見て、そのうち長男の処にも子供が生まれるだろうから……。
『百一匹わにちゃん大行進』を目指してがんばるぞ!
うん、わしも三回結婚を繰り返しただけのことはあったというものだ。
特に今の妻のリナはキャットテイル一族で、姉妹が二十三匹、兄弟が一匹いるから、わし、何と二十六匹兄弟になっちまって……。
やあやあ、結婚はするもんだなー。
という訳で、うちの次男と三男の嫁さんを探してます。
どなたかいいわにを紹介して下さい。
あ、いや、別にわにでなくても可。
わしの二番目の妻は猿だったし、今の妻はテイルだしね。
ただ、わしの希望としては、気立てのよい、素直でおとなしい娘さんがいいなあ。
いや、わしもリナも、嫁いびりをする趣味はないよ、それは保証するし、何なら息子の嫁のしろこさんか孫の嫁の素子さんに聞いてみるといい。
ただ、やはり、わに、いや、ぬいにとって、顔の美醜だの造作の美醜だのは、二の次三の次だと思う。
やはり、気立てだよ、気立て。
その点うちのしろこさんは、ええ嫁じゃあ。
気立てがいいだけじゃなく、素直だしおとなしい、それに、きれいだしね。
何たって、白いし、わにだし、わしにうり二つ。
まあ、その点、孫嫁の素子さんは、白くないし、わにじゃないし、吻は満足にでてないし、二本足で直立してしまってるし、いや、でも、気立てはいいよ。
素直でおとなしいかどうかはいささか問題があるが。
えーと、どこまで話したかな、それから、わしの嫁さんのリナが、これまたいい嫁で」(えんえんといつまでも続きそうなので、以下略。
とてつもなくおしゃべりなぬいなのである。
素子注)
大白(おおじろ)
わに・オス・未婚・しろわにの兄
我が家へ来る前、記憶喪失時代のしろわにの話を聞きたいと思っていたのだが、大白はその頃、しろわにとはまったく行き来をしていなかったので判らないと言う。
生き別れになっていた弟と、我が家で偶然再会したらしい。
……どういう家族なんだろう?
「大白です。
や、わしは話すことあまりないな。
わしとしろわには二匹兄弟なんだが、昔っから、何もかもしろわにの方がやってくれていたからなあ。
我がしろわに一族がやたら増えたのだって、一重にしろわにが結婚を繰り返したからだし、わしが話すようなことはすべてしろわにが話してしまうしなあ。
ま、一つ、よろしくお願いします」
ちゃわ
わに・オス・未婚・大白の親友でしろわに一族
茶色いわに。
ところで、しろわに一族は、通常『わにタワー』というものを作って暮らしている。
(一番下にネプチューンにはいってもらい、体の大きい順に塔になっているのである。
)これは、通常五、六匹、最大で十匹になるのだが、ちゃわと大白はタワーの基礎構成要員として必要不可欠である。
(あ。
最大十匹積むのにはとてつもない特殊技術が必要で、旦那にしかできない。
)
「ちゃわです。
大白もしろわにもいい奴なんだけど、どうもこの家は、白いわにや緑のわに、黒いわにが多くて、茶色いわには肩身が狭いような気がしないでもない。
だが。
言わせてもらえば、わに本来の色というのは、茶色ではないのか?
……あ。
自分で言って自分で不安になってきてしまった。
もし「わに本来の色はピンクだ」とでも主張をされたらどうしよう……?(割りと気が弱いぬいなのである。
素子注)」
しろしろ
わに・オス・独身・しろわにのよく判らない親戚
よく判らない親戚というのは……ほんっとによく判らない。
遠縁らしいのだが、それ以上の関係は、しろわにに聞いてもしろしろに聞いても判らないのである。
では、なのに何故、自分達が親戚だって判ったのかというと……その理由もまた、謎なのである。
ほんっと、しろわにってどういう家族やってるんだろう?
売り場にいた時からすでに多少汚れていたので(店頭ディスプレイをずっとやっていたらしい)、「汚い」「白くない」って言葉に、とても深いコンプレックスを抱いている。
「……しろしろです。
せっかくの旅行だし、大勢の方に会えるんだし、できれば、お風呂にはいってさっぱり清潔になってから、今回のぬいバスに参加したいです。
ただ、素子さんが言うんだよね、僕サイズのぬいは、水を使ったお風呂にいれていいかどうか疑問だって。
けど、僕はがんばってお風呂にはいるつもりです。
だって、素子さん、『ベアバス』っていう、水を使わないぬい用のお風呂にも、やっぱり僕達をいれてくれないんだもん。
(……だって……小さいぬいならいいんだけど、しろしろサイズの奴の全身をベアバスで洗うのって……ほんっとに重労働なんだもん。
素子注)
この間しろわにがベアバスで洗って貰ってたんだけど、何と素子さん、尻尾の半分をやっただけで力尽きちゃったの。
尻尾の半分だけがきれいなぬいって、変だよね?
で……もし、お風呂にはいれなくて、汚れたまんまで参加しても、許してね」
エッセル
わに・オス・独身・家族なし
わに全部の最長老、この家で二番目に古い、私か小学校の頃から一緒にいたぬい。
手足はすべて、とれたこと数回以上、目がとれたこと一回(だから、片目はどうしてもきれいに眼窩におさまらない)、口と顎はうちの母が未熟な手法で修理手術を施した為、あからさまに地肌と色が違う。
ただ……その……エッセルって多分、とてつもなく丈夫な布で作ってあるんだろうなあ、こんなにされているっていうのに、最近の若いぬいよりも頑丈であり、子供とも遊べる。
(最近の若いぬいは、十年たたないうちに布地そのものが劣化してきてしまい、洗った時の自重で破れてしまったりする。
)
「エッセルです。
最長老の『わんわん』さんが、布地の劣化で滅多に動かなくなってしまったので、一応、我が家におけるぬいの最長老をやっております。
ま、基本的には『子供だった時の素子さんのおもり』を仕事にしておりまして、素子さんがあまり成長しなかった為か、驚くべきことに、未だにその仕事をやっております。
もう、素子さんのおもりに関しては、その道二十五年のプロです。
しかし……だが……考えてみると、二十五年もおもりをされている素子さんて一体……」
エッフィル
わに・オス・独身・家族なし
エッセルさんの二年くらい後に我が家に来た、やはり二十何年もののぬい。
(だが。
ことわにに関する限り、我が家には、二十何年ものは大勢いるのであった。
えーとつまり、私とぬいとの関係って、わにで始まり……このまんまだと、わにで終わりそうな予感がする……。
)
お腹の白黒のだんだら模様がチャーム・ポイントで、別名、『だんだらわに』。
「どうも。
フィルです。
セルさんの話に異議を唱えるつもりはないし、セルさんの仰ることも最もなのですが、ですが……『基本的に子供の素子さんのおもり』をするぬいは、実は、僕でした。
セルさんは、出自を正せば、素子さんの妹の直子さんのぬいなのです。
素子さんの子守ぬいは、実は、僕。
ですが。
僕が来る前に素子さんがすっかりセルさんに懐いてしまった為と、どうも僕が、自覚はしていないのですが、子供相手には、いささかハンサムすぎ、しゃれた造作でありすぎる為に、子供時代の素子さんのお世話は、すっかりセルさんに任せっきりになってしまいました。
……まあでも……無理矢理クッキーを食べさせられて口の中が腐ってしまったセルさん、素子さんと直子さんに思うさま遊ばれ、手足がとれてしまったセルさんを見るにつけ……『ああ、僕は子供が苦手でよかった』って、心の底から、毎日のように思っていました。
セルさんの素子さんへの献身には、見ていて頭が下がります」
新井素子さん
わに・オス・独身・家族なし
えーと……『新井素子さん』という名前のぬいである。
だから、彼に敬称をつけると、『新井素子さん』さん、となる。
『ぬいぐるみさんとの暮らし方』っていう本を翻訳して出版した時、ぬいぐるみ売り場でサイン会をした。
そのサイン会会場で、私が到着するまで、机の上に、『新井素子さん』って名札をつけて立ち、代理をしていてくれたのが彼である。
(ぬいぐるみ売り場でのサイン会だったので、謝礼は、そこで売っているぬいぐるみで適当な価格のもの、だった。
私が彼を選んだのは、言うまでもない。
そして、この子の名前が『新井素子さん』になってしまったのも、無理はないと思う。
だってこの子……『新井素子さん』って名札をつけていたんだもん。
)
「あ。
……あ? ……あ!」(すみません、新井素子さんは、これしか言えません。
ちなみに、今回、ワープロにそういう字がなかったので『あ』って書きましたが、彼の発音する『あ』は、平仮名の『あ』に濁点をつけたものです。
そうとしか言いようがない発音をするんです。
素子注)
みどりわに
わに・オス・独身・家族なし
くろわに一族の一員で、左肩に黄色い鳥をとまらせている。
(その鳥は、みどちゃんのペットだという説と、家族だという説と、二つある。
みどちゃんがどっちだか明言しないので、これは今の処謎である。
)
趣味は、文通と歯磨き。
「はーい、みどです。
気軽に『みどちゃん』って呼んでね。
趣味は、文通と歯磨き。
でも、みどは字を書くことができないので、文通は今の処、素子さんの手を煩わさなくちゃできなくて、大人のぬいのみどは、それ、できるだけ控えてまーす。
そのかわりに、燃えているのが歯磨きだ!
君はちゃんと歯を磨いているか?
歯は、ちゃんと磨けば長持ちするし、健康にもいいんだよ。
そして、ちゃんと磨かなければ……。
とても恐ろしい事態が君を待っているんだからね。
だから、歯を、ちゃんと磨こう。
何? ちゃんとした歯の磨き方が判らない?
なら、みどが教えてあげようじゃないか。
はい、歯ブラシもって、しゃかしゃかしゃかしゃか……」
まっとわに
わに・オス・独身・家族なし
えーと、平たい、わにである。
まるで熊か何かの毛皮のように、べたーっと床に横たわる、そういうわに。
普段は、ソファの上にいる。
あたかも、誰かがのっかるのを待つかのように。
が、しかし、実際の処は、素子以外の人がのっかってしまったら、抗議の渦を寄せるわになのであった。
「まっとです。
うん……えと……大きいんだよね、まっと、これでも。
大きくて、平たくて……くっすん、他の人を体の上にのせるのに、ほんっとおに最適な体型をしているんだ、僕。
だから、僕の上に素子さんが乗っかっちゃってもしょうがなくて……でも……しょうがないんだよね……。
うん、変なことを言ってしまった、反省」
男の気持ち(らっちゃん)
らっこ・オス・既婚・娘一人・『気持ち一族』の頭領
『気持ち一族』というのはらっこの一族で、妻の“女の気持ち”、娘の“娘の気持ち”、妻の友人の“友達の気持ち”、大きならっこの“大きな気持ち”夫婦がいる。
もっとも普段は、彼は大抵、「らっちゃん」と呼ばれている。
我が家で唯一、サラリーマンをしていると主張しているぬい。
らっこ商事の人事部に勤務しているそうである。
「いやー、らっこっす。
どうもなんかその、いや、実は僕、こう見えても素子さん家のリビングの総責任者をやっているんですよ。
(素子注・これは本当。
しゃべることの内容の割りにはたよりになるので、旅行へ出る時には必ずらっちゃんにあとのリビングを任せている。
あ、今まで書いてなかったけれど、夢ノ介は和室の、ポセイドンは納戸の総責任者。
後からでてくるこんこんは寝室の総責任者。
)
いっやー、それでね、僕は小さくて可愛いぬいなもんで、ぬいバスの趣旨からは外れるんですけど、特別に今回、家族で旅行にまぜてもらいました。
何たって、やー、総責任者ですからね、普段は気軽に旅行なんかできないんすよ、これが。
ま、でも、それだけたよりにされていると思えばしょうがないっていうか、僕程たよりになるぬいはなかなかいないですからねー、いっやー、これもしょうがないって、諦めていたんですけどね。
や、や、や、家族旅行。
いっやー、いいことってあるもんですねー。
妻と娘を連れて旅行。
あ、はいはい、妻の親友も一緒ですね、判ってますって、忘れてません。
友達の気持ちさんにもちゃんと気を遣いますってば、大丈夫ですよ素子さん、そんな心配しなくても。
だって僕、これでも営業らっこっすからね、この家で唯一のサラリーらっこ。
あ、でも、営業らっこっていっても、僕は人事担当なんですけどね。
いっやあ、でも、昨今の経済事情は、我がらっこ商事にとってもなかなかきついです。
人事部に所属していても、そのくらいのことは肌身にしみてよく判ってます。
何たって、他のぬいと違って、僕には社会性ってものがあるんですよね。
……今年のボーナスは悲惨でした。
貝二十個しかでなかったんです。
あのボーナスを見れば、こう、何というか、世間の冷たい風ってものを、しみじみと感じてしまいますよ、いっやあ、いくら人事でも。
それに来年は、どうやら我がらっこ商事も、本格的にリストラを始めないといけない雰囲気になってきています。
新入らっこなんか、ここ数年、ほんっとわずかしかとってませんしね、かといって、まったく新人をとらないって訳にもいきませんし、そうなると、リストラ。
うちの会社の悪口は言いたくはありませんが、でも、らっこ商事の窓際族ってつらいっすよ。
会社にあんなことされたら、ほんと、第二のらっこ生を模索しようって気分になります。
何たって、席が、ほんとの窓際。
カーテンなしで直射日光もろあたりなんです。
御存知ですか、ぬいぐるみの場合、そういう席に長いこといると、体色が褪せてしまうんですよ。
こうなるとね、ほんっと、退職するか褪色するかって話になっちゃって……あはは、今の、ちょっと無理がある台詞でしたかあ?
それでですね、いっやー、実は……」(以下略。
こいつはほっとくと、ほんっとおに、いつまでもいつまでもしゃべる奴なのである。
素子注)
女の気持ち
らっこ・メス・既婚・男の気持ちの妻・娘の気持ちの母
赤ちゃんの時、男の気持ちとお見合い結婚した。
(男の気持ちを「光源氏らっこ」と呼んでやろう。
)
……今でも何か、赤ちゃんのまんまである……。
「…………かーいー…………。
かい」(素子注・すみません、彼女はこれしかしゃべれません。
)
娘の気持ち
らっこ・メス・未婚・男の気持ちと女の気持ちの一人娘
男の気持ちが目の中に入れても痛くないって雰囲気で可愛がっている一人娘。
性格その他は……その……母親似。
「かい」(素子注・女の気持ちは、まだ、「かーいー」「かいよー」「かいー」「かい」って具合に、パターンをもってしゃべれるんですが、娘の気持ちは、ほんっとにこれしか言えません。
ただ、まだ子供なので、将来に期待したい処です。
)
友達の気持ち
らっこ・メス・独身・女の気持ちの親友
あの少ない語彙の女の気持ちとどうやって意思疎通をしているのか、女友達っていったら、主な娯楽はおしゃべりだろうに、どうやって親友やっているのか、所有者である私達にとっても謎である。
でも、女の気持ちとはとても仲がいい。
ちなみに、彼女も比較的無口。
無口同士気があうのかも知れないが、ほんっと、普段この二人はどうやってつきあっているのだろう……?
「…………友達の、気持ち、です。
……かい。
……かいです。
…………よろしく、お願い、致し、ます。
……かい」
じーさん
羊・オス・独身・ひーさん、つーさんと三人組で、羊
グループを作っている
名前のせいじゃなくて、もともと、かなりのお年。
「じーです。
でも、ほんとはわし、羊じゃなくて山羊だって説もある。
わし、あごひげがあるんだが、いつか見たアニメに出てくる山羊には、こんなひげがあったような気がする。
だが、山羊になると、ひーさんとつーさんとトリオを組めなくなるしな。
それに……素子さんが脅かすんじゃ。
山羊なら、やーさんだってな。
じーさんって名前も嫌だが、やーさんは……何かその……。
わしは温厚な羊である。
あるいは、温厚で優しい山羊である。
やーさんではなくて、あくまでじーさんである。
でも、お年寄りじゃないから、そのつもりで」
ペン
ペンギン・オス・独身・家族なし
昔、サントリーの缶ビールのコマーシャルやってたペンギンさんの、うんと太ったの。
(……だと私は思っている。
けど……ほんとはどうなのかなあ、著作権はどうなっているのかなあ、その辺は、知らない。
)
ペンギンは、ある程度数がいる筈なんだけど、みんな独立独歩で、これといって一族みたいなものを作っていないみたい、うちの場合。
「ペンです。
ポシェットがチャームポイントね。
丸いです。
お腹なんて、旦那より丸いっ。
これは威張っていいことです。
チャームポイントです。
丸いです。
えっへん」
パラシュート象
象・オス・独身・家族なし
パラシュート象って言っても、別にパラシュートしょっている訳でも、高い処から飛び下りるのが趣味だって訳でもない。
(多分)パラシュート地っていう布地でできている象である。
(……最近ぬいぐるみによくあるあの布地……確か、以前、パラシュート地って聞いたことがあるんだよね。
パラシュートの素材になっている布地だって。
それでこういう名前になったんだけど……あの布地、本当にそういう名前なのか、通称なのか、それともすべてが私の誤解なのか、その辺の処は、実ははっきりしない……。
)
「パラシュート象です。
ぱおおん。
温厚でいい子です。
あんまり温厚でいい子なので、ファージがよじ登ってきても、ファージに何をされても、文句を言うことができず、さんざ汚されてしまいました。
ぬいバスに乗る前にお風呂にいれてあげるって、素子さんは言ってるけど、あの素子さんのことだ、それ、忘れてしまうんじゃないかなあ。
だから、もし僕が汚れていても、気にしないでね」
とり(わらいかわせみ)
トリケラトプス・オス・独身・家族なし
本名は、わらいかわせみと言う。
だが、私や旦那も含め、通常、彼の本名を意識している人はいないんじゃないかなあ。
だから、通称、トリケラトプスの、『とり』。
ぬいバスに乗るにしてはサイズが小さいのだが、らっちゃん達と同じ、「普段は御苦労様」っていう、労いの理由でぬいバスに乗ることになった。
(平生は、リビングにおける旦那の枕役をしているのである。
だから、妙に、背中のあたりが平たい。
その、平たい処に、旦那の頭が乗っている訳である。
)
「えと……とり、です。
よろしく。
えーと、えーとね、最近は、恐竜のぬいが、結構いてくれて、嬉しいです。
うん、うちにも、小さいトリケラトプスや、ステゴザウルス、プテラノドンなんて、お仲間のぬいがここの処増えてきていて……一族でも作っちゃおうかな。
あ、嘘々。
一族を作るっていうと、素子さんが怖い顔をするので、これは嘘です。
えとえと、とにかく、とりをよろしく。
……えーと、と、とり、とりとり、ととりとりっと、よーろしくね」
(……素子注。
そういえば、とりって、こうやって歌うぬいだったんだ、最初っから。
その、歌っているが如き言葉の節が、わらいかわせみの歌の、『け、けら、けらけら、けけらけらっと、うーるさいね』っていうのにそっくりで……だから、ああいう本名になったんだっけ。
)
マンボウ1
マンボウ・オス・独身・空気ぐるみ一族
……これは……その……ぬいぐるみ、というか、空気ぐるみである。
(要するに、風船をぬいの表皮で覆っているの。
ちなみに、この後の、マンボウ2と、たこちゃんも、空気ぐるみ。
)
だから、サイズの割りにはとても軽い。
普段はマンボウ2と一緒に書斎にいて、他のぬい達とあまり交流がない、比較的無口なぬいである。
(書斎にいるぬいは、本棚の上っていう、脚立なしでは手が届かない処が定位置の為、滅多に動かないし、素子や旦那とも、視線で交流するのが主である。
)
「マンボウです。
最初は、マンボウって名前でした。
2が来たので、マンボウ1になりました。
手抜きだと思います」
マンボウ2
マンボウ・オス・独身・空気ぐるみ一族
マンボウ1にちょっと遅れた、でも、ほとんど同時期に貰った、まったく同じぬい。
ぬいの場合、同じメーカーの同じ製品であっても、微妙な肉づき、目鼻の違いで、その個体を識別することが可能なのだが、マンボウ達の場合、空気の入れ方によってまったく印象が違ってしまう為、最初、1と2は、ぬい慣れしている私やうちの旦那にも、どうしても区別がつかなかった。
(名札をつけるしかないかって話にもなったことがある。
)
が、何たることか。
書斎にいるぬいは、猫のファーに蹂躪されてしまうのが常なのだが(ファーは本棚の上、ぬいぐるみ達に囲まれて昼寝をするのが好き)、マンボウ2、来てすぐ、ファーにちょっと爪をたてられ……普通のぬいなら何てことない筈なのに、空気ぐるみであったが為に、微妙に空気が抜けるようになってしまった。
そういう訳で、哀しいことにマンボウ1と2、今では簡単に区別がつくようになってしまったのである。
ずっと普通のぬいでいるのが、マンボウ1。
空気をいれてしばらくは平気でも、しばらくすると(そんなに大きな穴があいた訳じゃない、ほんのぽっちり穴があいただけらしいんだよね)縮んでしまうのがマンボウ2。
穴を塞いであげたいのは山々なんだけど、なにせ、余りに微細な穴で、未だ発見ができずにいる……。
「……………………」(すみません、本気で無口なぬいなんです。
……ま、来てすぐに穴をあけられてしまったって事情を考えれば、当然のことのような気もしますが……。
)
たこちゃん
たこ・オス・独身・空気ぐるみ一族
マンボウ達とおんなじ空気ぬい。
形状が形状なので、別名ビーチボールたこ。
(……ビーチボールに足が生えたような恰好をしている……。
塩水と潮風はぬいの体によくないって判っているから、絶対しないけど、一目見たその日から、私はいつか、たこちゃん連れて海に行ってビーチバレーをしたい……。
「……………………」(素子注・あ、まただ。
空気ぐるみ達って、みんな無口ね……。
)
たぬろう
たぬき(……かな? ふくろうかも知れない)、オス、独身、家族なし
えっと、とある雑誌の、マスコットぬい。
そして、旦那の親衛隊の一人である。
(あ、旦那の親衛隊っていうのはね、常日頃、旦那と一緒に眠っている、旦那の面倒を専門でみているぬいである。
)
「たぬろうです。
んあ? ぬいバス?
それ、僕と関係ないことでしょう。
だって僕、大きくないし、素子さんとは関係ない、旦那の親衛隊だし……。
あえ?
旦那の特別要請で、親衛隊もぬいバスに参加できるようになった? んで、僕がそのメンバーとして選ばれた?
あ、そりゃあ、凄いなー、凄いぞ。
旦那の寝相のせいで、ベッドから落とされても落とされても我慢していたかいがありました。
えーと、僕の感想って、そのくらいです」
こんこん
きつね・オス・独身・旦那の親衛隊長
親衛隊長である。
我が家のぬいは、大別すると、素子のぬい、旦那のぬいに分かれるんだけれど、旦那のぬいの中では一番偉い。
だもんで、旅行経験もそれなりに豊富、ぬいバスに参加するのは何かちょっとずるいような気もするんだけれど……親衛隊長だもんなー。
旦那の断固推薦つきだもんなー。
「こんこんです。
国内旅行、海外旅行、どっちもしたことがある僕が参加するのは、素子さんも書いているように、ちょっと他のぬいに悪いかなって気もしますが、すみません、一応、親衛隊長なもんで。
素子さんは慣れているし、問題はないと思うのですが、実は僕、ちょっと旦那のことが心配なんです。
それもあって、今回は無理にでも参加させてもらいました。
旦那、SF大会って、これが二回目なんです。
そんでもってあの……旦那はSFファン活動なんかまったくやったことがない人なので、結婚前に一回参加して、知り合いも全然いなくて、「僕にはついてゆけないような気がする」って感想を、SF大会にもっているみたいで……。
こんな初心者の旦那ですが、何とぞよろしくお願い致します。
旦那のことだけ頼みたくて、旦那のことが心配で、僕は参加しました。
」
ぴんつま
かば・メス・妻一族
……あ。
この説明もすっごくやっかいだ。
えーと、我が家にはかばの一族がいるのだが……えーとえーと……。
結婚前、素子は旦那に、十五センチくらいのかばを渡した。
小さいぬいだし、いつも一緒にいられるし、旅行する時なんか、お守りがわりにって。
そして、そろそろ結婚を考えだした時期、田舎へ帰省した旦那、お姑さんに、さり気なく「そろそろ結婚を考えている」って話をし、その時、何を思ったのか。
「これが妻」っつって、ぬいかばを見せてしまったのである。
そして。
この時以来、そのかばは(ちゃんと正式な名前があったのに)、みずから「妻」と名乗り、旦那の正妻であることを主張している。
(その主張によると、素子は妾なのだそうだ。
)
しかも。
かばは、一族あげて、その妻の主張を正しいって認めてしまい、かば一族は一夜にして「妻一族」を名乗るに至ってしまった。
(オスのかばもいるのに……。
オスのかばも、自分達が正しい妻だって主張してるんだよね……。
)
問題のぴんつまは、きれいなピンクをしていたので、最初の名前は『ぴんかば』、通称『桜餅かば』だったのに、今では、『ぴんつま』『桜餅つま』と名乗っている……。
「ぴんつまです。
この時代に妻妾同居っていうのは、あんまりだって、女性のみなさま、思いませんか?
あちらのお姑さまに最初に紹介していただいたのはつまなのに……。
素子さんなんて、素子さんなんて、籍がはいってるだけじゃないですかっ!
しかも、ぬいぐるみには戸籍がない!
籍を入れようにも戸籍がないんだもん、こんな酷い話って、あると思います?
これは、ほんっとおに、ずるいっていうか何ていうか……。
本当の妻は、私達妻一族です。
(素子注・本当の妻が一族だっていうのも、変だと思うぞ……。
)
私はそう主張しますっ!
……ま、でも。
素子さんが一緒にいることで、利点がない訳じゃ、ないんですよね。
えーと、例えば、その。
私、別名桜餅つまっていって、桜餅みたいにきれいなピンク色を、本来なら、してるんです。
けど、日常生活の汚れが、私を、桜餅からピンクと茶色の間の色にしてしまって……。
お風呂に入れてさえ貰えれば、私は、また、美しい桜餅色になるんです。
んでもって、ぬいをお風呂に入れてくれるのって、主に素子さんの管轄で……。
妻妾同居は許せない、けど、お風呂にはいれて欲しい。
えーと、えーと、えーと……。
もしSF大会に出席した私が、きれいな桜餅色をしていたら、私は、とりあえず、今回に限り素子さんに目をつむってあげましょう。
でも、もし、ピンクと茶色の中間色だったら……私はっ、私はっ、妻妾同居は許せないわっ!」
(素子注・でも……かば一族って、目鼻が接着剤でついている、できるだけお風呂にいれない方がいい一族なんだけどなあ……。
)
くまちゃん
熊・オス・家族なし
えーと、パルコとしろくまが、「くまちゃんと一緒がいい」って主張するので、今回のぬいバスに参加することになりました。
かなり小さな熊のぬいぐるみです。
(小中一哉さんの『くまちゃん』って映画で主役をやってたぬいぐるみです。
)
「……えと。
くまちゃん、です。
……あの……。
パルコさんと、仲良しです。
……えと……しろくまさんとも、仲良しです。
……んと……他には……。
えと、くまちゃんです」
みなさま、ぬいバスの乗り心地はいかがでしたでしょうか?機会がありましたなら、ぜひ、また一度、みなさまにお目にかかりたいと存じます。
それでは、また……。
表紙: しし達
裏表紙:アルファベットわに
編集後記
ども。
ぬいバス&ぬいぐるみの部屋を企画・実行することになりました、R.です。
最新技術…ということで、フォトCDを使ったりしたわりには〆切におわれ、白黒コピー誌になってしまいました。
本当は、ぬい達の姿をフルカラーでお見せしたかったのですが・・・
なにはともあれ、ご協力くださった方々、ぬい企画に参加してくださった方々、ありがとうございます。
一九九五年盛夏
−スタッフ−
本文聞取:新井素子
口上 :MILKA
写真撮影:中山 蛙
編集 :R.田中二郎
もとちゃんのぬいさんのおでかけ
1995年8月19日発行
発行:R.田中二郎
jiro@mail.nerimadors.or.jp
※本htmlは、コピー版同人誌の原稿/データをもとに、R.田中二郎が編集しました。
<jiro@nerimadors.or.jp> <JR3JXE/1>